神戸家庭裁判所姫路支部 昭和43年(家)594号 審判 1969年3月22日
申立人 高木柾子(仮名)
主文
申立人の氏「高木」を「吉田」に変更することを許可する。
理由
一、申立人は主文同旨の審判を求め、その実情として次のとおり述べた。
申立人は、吉田正(大正一四年二月一九日生)と昭和二〇年一二月に結婚し昭和三八年六月一八日正が死亡するまで同人と内縁の夫婦として同棲していたが、その間正との間に昭和二二年三月二六日に豊を、昭和二三年一一月二五日に元子を、昭和二八年八月四日に憲一をそれぞれ出生した。しかし申立人は正との結婚後その婚姻届をしないまま正が死亡し、婚姻の届出の機会を失つた。申立人は昭和二一年頃、正の叔父に依頼した際に正の本籍地である兵庫県揖保郡○○町○○○○○番地に婚姻届がなされているものと信じていたが、昭和四三年に入つてから婚姻届出がなされておらず、そのため三人の子供もその出生の都度出生届をしたのにかかわらず不処理のまま放置されて戸籍に記載されず無藉となつていたことが判明した。申立人は昭和二〇年に正と結婚以来今日まで二〇年余終始正の妻として吉田姓を称してきたものであり、正の親族も申立人を正の妻として遇するはもちろん、住民票にいたるまで日常生活においてことごとく吉田姓を使用している実情であつて、戸籍上の氏である高木姓を使用することは絶えてない。従つて申立人の氏が戸籍上「高木」であることは社会生活上著しい不便不利益を被つているので本件申立に及んだ。
二、よつて審理するに、調査の結果によれば申立の実情のとおりの事実をすべて認めることができるほか、申立人と同籍の豊、元子、憲一(いずれも満一五歳以上の者)もまた吉田姓に氏変更を希望していることが明らかである。
ところで、氏の変更は身分関係の変動に伴つてのみ生ずるものであつて、結婚後も婚姻届出をしない限り戸籍上の氏が変らないのは婚姻届出を怠つたことの結果として受忍すべきが原則というべきであるが、申立人は正と結婚後二〇年余に亘つて吉田姓を使用してきたものであるほか、昭和二一年頃婚姻届出を吉田敏夫に依頼した際に既になされているものと信じて今日に至つたため正の死亡後既に三年以上を経過し三名の子について認知の訴も提起することができず、従つて将来父の氏として吉田の氏を称することもないこととなる事情も併せ考慮すると、本件申立は戸籍法一〇七条一項にいう「やむを得ない事由によつて氏を変更しようとするとき」に該るものとして認容すべきものである。
よつて主文のとおり審判する。
(家事審判官 亀岡幹雄)